Q1
景気はまだまだ厳しい状況が続いていますが、今年の賃上げ水準はどれくらいになりそうでしょうか。(金属機械メーカー)
A1
昨年の春闘では多くの労働組合がベースアップ(ベア)を含む賃上げを要求しましたが、今年は一転して「守り」の姿勢に入っています。
賃上げには、年次と共に賃金が増加する定昇(賃金カーブ維持分)と、賃金水準の底上げを意味するベアがあります(中小企業等では両者の区別がないケースもあります)。昨年は、食料品やガソリン等の物価高などを理由にベア要求が相次ぎました。しかし、世界同時不況による収益の急激な落ち込みに直面した経営側は、軒並み「ゼロ回答」としました。そればかりか、定昇の凍結や一時金の大幅減で決着したところも多く見られました。こうした経緯を踏まえ、今年の連合(日本労働組合総連合会)は統一的なベア要求を断念しました。企業収益が依然として極めて低い水準にあること、物価下落が広がっているという厳しい現状を踏まえ、雇用の確保、定昇の維持を最優先する方針です。
一方の経営側も、雇用維持を重視するという点では一致しています。しかし、労働側が定昇の維持を最低ラインに据えるのに対し、経団連は定昇見直しも議論の対象になりうると指摘しており、経営側は人件費抑制姿勢を強めています。収益が底入れしたとはいえ、景気の先行きに対する不透明感が拭えず、コスト削減が十分に進んでいないという認識が経営側にはあるといえます。2009年10〜12月期の財務省・法人企業統計によると、企業の人件費負担感を表す売上高人件費比率(みずほ総合研究所による季節調整値)は、昨年春のピークから低下したとはいえ、景気後退に陥る前と比べれば未だ高い状態です。中小企業の人件費比率も低下していますが、やはり高水準です。
各種のアンケート調査からは、企業は単に人件費削減を進めれば良いというのではなく、労働力の定着を図るため、ある程度の賃上げは行うべきと考えているようです。しかし、業績が厳しく賃上げ幅を圧縮せざるを得ない企業は依然として多くあります。労働側と経営側の隔たりは全体としては昨年ほど大きくないと考えられますが、最終的には個別の交渉次第です。定昇を維持するかどうかをめぐって激しい対立が生じる場合もあるでしょう。
中小企業は1%台前半
以上のような情勢を踏まえ、みずほ総合研究所では、今年の主要企業の賃上げ率を1.75%と昨年(1.83%)をやや下回ると予想しています。1%台にとどまるのは9年連続となります。中小企業は大企業以上に厳しく、1%台前半で妥結する見通しです(中小企業は08年度に集計が廃止されたため、賃上げ率は目安です)。
なお、今年の春闘では、賃上げ率の動向に加え、一時金や非正規労働者の待遇改善を巡る交渉の行方も注目されます。現状のような厳しい収益環境の下では、一時金についても大幅な回復は期待できそうにありません。非正規社員の待遇も重要な論点ですが、給与面以外の労働条件の改善などが交渉の中心になるでしょう。景気回復が続いているとはいえ、労働者の所得環境は今年も厳しい状況が続きそうです。
提供:株式会社TKC(2010年4月)