【質問】
法人税の税務調査により、前代表取締役(被相続人)の社葬費用の一部について、相続人(現代表取締役等)が負担すべきものであるとの指摘を受けた。相続税の法定申告期限から1年を経過しているが、法人税について修正申告をすれば、相続税について更正の請求をすることができるか。
更正の請求ができないとすれば、相続税について減額更正がされるか。
【回答】
1 法定申告期限から1年を経過しておれば、後発的事由でない限り、更正の請求はできません。
後発的事由としては、国税通則法23条2項2号に「ある者の所得として申告していた所得が他の者に帰属するものとする更正決定があったとき」という規定がありますが、「ある者の経費として申告していた経費を他の者の経費とする更正決定があったとき」という規定はありません。従って、本件相続税については、通常の更正の請求も後発的事由による更正の請求も、できないこととなります。
2 ところで、国税通則法24条は、増額更正、減額更正を問わず、「……その他その課税標準等又は税額等がその調査したところと異なるとき」は「その調査により……税額等を更正する」と規定しています。しかし、減額更正については、更正の請求という制度が設けられている趣旨及び各税務署によって取扱いに差異が生ずることを避ける趣旨から、一般的には、更正の請求がない限り、減額更正はしないという取扱いであり、この考え方は、最高裁でも支持されています。
この考え方による条文解釈は、上記「その調査したところと異なるとき」は「その調査により……更正する」という規定を、(更正の請求がされていないときは)「減額事由があるとしても、積極的にその事由を調査することはしない(従って、減額更正はしない)」とするものです。
その意味において、積極的に減額事由を調査しなくても、既に税務署において減額事由があることが明らかであるとき(例えば、前期否認・後期認容、稀には前期認容・後期否認)は、「認容事業年度」については、特にその調査をしなくても、この国税通則法24条の「その調査したところと異なるとき」に該当するとして、(更正の請求期限を徒過し、かつ、更正の請求がなくても)減額更正をするのが一般的です。
3 2の後段の考え方は、通常は、同一税目の場合です。
しかし、法人税と相続税という税目に跨っていても、同様の事情にあれば同様の取扱いをすべきであると考えます。もっとも、「法人の損金に算入すべきでない」とされたものが即「相続税の債務控除の対象となる」として、「調査を要せずして」税務署に明らかであるかどうかということについては、疑問がないわけではなく、この点は、問題となります。
ましてや、その意味では、法人税について単純に修正申告をするだけでは、それが即「相続税の債務控除の対象となる」かどうかは、税務署には不明であるかも知れません。この点も、問題となります。
4 本件は、納税者の処理に何らかの意図があった場合を除き、適正公平な税務行政という観点からは、法人税の増額更正と相続税の減額更正とを同時にすべきものであると考えます。しかし、法律的には、相続税について減額更正がされなくても、これを争う手段はありません。
従って、修正申告を提出する前に税務署の担当者とよく話し合い、かつ、社葬費用に算入した「やむを得ない事情」を嘆願書等により陳情し、相続税についての処理に目途がついてから、修正申告をすることとした方がベターでしょう。
繰り返しますが、本件は、相続税について減額更正がされなくても、これを争う法律上の手段はありません。
【関連情報】 《法令等》 国税通則法23条