(質問)
消費税増税後、経営環境は厳しくなっていますが、人材確保の観点から今年も冬季賞与を支給する予定です。中小企業の相場を教えてください.
(回答)
賞与は、半年前の企業収益に連動して動く傾向があります。もっとも今冬の賞与は、2014年度上期の企業収益に比べると強含む可能性が高いとみられます。
まず、2014年度上期の日本経済を振り返ってみると、消費税増税後の需要が減退した後、持ち直す展開となりました。
とはいえ、夏場にかけて天候不順やガソリン価格上昇の影響などもあり、分野や地域による好不調のばらつきが大きくなったことから、全体としての回復ペースは緩慢なものにとどまりました。
日銀短観9月調査によると、今年4~9月期の企業収益は全規模全産業ベースで前年比▲6.6%の減益が見込まれています。
このため、通常であれば、今冬の賞与は減少するのが道理です。
しかし、1991年以来の23年ぶりの高い伸びとなった夏の賞与(事業所規模5人以上の1人当たり支給額前年比+3.1%)に比べるとやや伸びは鈍化するものの、増加するとみられます。
これは第1に、2013年度に収益が改善した後も、多くの企業が人件費抑制の動きを続けたため、企業の人件費支払い余力があるためです。
労働分配率(人件費÷付加価値額)は、2000年代半ばに人件費が増えた際の水準を下回るまでに低下しています。
第2に、人手不足感の高まりが人件費上昇圧力となっていることも理由として挙げられます。
日銀短観雇用判断DIをみると、中小企業を中心に、飲食、運輸、建設、小売など非製造業で特に人手不足感が高まっています。
実際こうした業種では、非正規社員の正社員化など、人件費負担の増える人材囲い込み策に動く企業が相次いでいます。
逆に、待遇改善の遅れた企業では、人材流出により業務の縮小に追い込まれた例もあります。
第3に、政府の賃上げムード作りも指摘できます。
デフレ脱却に向け、政府高官から異例の賃上げ要請が相次いだほか、政策面でも、一定の基準を満たした給与支払増加額に応じて、減税を認めるという所得拡大促進税制が拡充されました。
〇支給対象者を広げた中小企業
ちなみに、夏の賞与を企業規模別にみると、事業所規模500人以上で前年比+8.1%、100~499人と30~99人で同+4.4%、5~29人では同▲2.1%となりました。
一見すると規模が小さい5~29人企業だけ取り残されているようにみえますが、この数字の評価には注意が必要です。
支給労働者割合をみると、大方の事業所が前年並みとなるなか、5~29人企業だけ2.2%ポイント上昇しています。
このため、支給総額(1人当たり支給額×支給人数)の前年比は+4.3%と、他の規模の企業と大差ない数字となっています。
5~29人企業の1人当たり支給額の減少は、実際に賞与が減額された例が増えたためではなく、賃金水準の低い飲食サービス業やパートタイマーまで支給対象者が広がった結果、統計上、平均額が押し下げられたにすぎません。
今冬の賞与決定にあたっては、自社の収益や支払余力の多寡がまず前提となりますが、中小企業でも支給対象者を広げ、従業員のモチベーションアップに努めている動きが出ていることを視野に入れておくべきでしょう。