Q
中国・上海に当社初の現地法人を設立したいと考えています。同社に出向する日本人社員の給与の算定はどのように考えればよいのでしょうか。
A
社員は現地法人に出向中も日本の社会保険料を払い続けるなどして、日本における生活基盤を維持する必要があります。これに伴う出費をまかなえるように、国内で勤務していたら支給されただろう月例給与の一定割合を、まず円建ての月例給与として定めます。
上海を含め中国では単身赴任者の割合が高いのですが、単身赴任者については、日本に残した家族がこれまでどおり生活ができるように、この円建ての月例給与を増額します。
次に、出向者が上海でその役職にふさわしい水準の生活が送れるように、現地の物価を参考にして、手取額で人民元建ての月例給与を算定します。ただし、通常、住宅費はこれには含めず、会社が別途、家賃の実費を負担します。また、通勤や私用に使う自動車については、上海を含め中国では保有を認めない会社が多く、自動車関係費もこの給与には含まれません。この上海での生活費見合いの人民元建て給与は、物価が上がれば、それに応じて見直しを行い、金額を改定しなければなりません。
日本人海外勤務者は、上海のみならずどの都市でも、安全で利便性の高い特定の地区に固まって住む傾向があります。そのため、生活の質に大きな選択の余地はありません。出向者の上海での生活費見合いの給与は、本社での序列や社員資格に応じて差を設けることが公平と理解されていますが、このような事情のため、日本と同様に上下間で大きな差をつけることは避けるべきでしょう。
家族帯同者については、家族の生活費見合いも含まれるように人民元建ての月例給与を増額します。また、子が上海で通園・通学をする場合には、その実費を別途、子女教育手当として支給します。
このように、出向者の月例給与は、大きく分けて円建ての給与と人民元建ての給与の2本立てとなります。さらに、出向者には、海外勤務中も国内勤務者と同一基準で賞与を決め、支給します。
なお、社員を現地法人に出向させると、引越代や一時帰国休暇の旅費、医療費など様々な臨時的費用が発生します。このような費用については、その見合いを給与に含めず、海外勤務規程に定める範囲内で実費を会社が負担します。
現地法人への出向者の給与のあらましは以上のとおりですが、実際には、会社によって給与の積み上げ方が少しずつ異なります。現地での生活費見合いの給与を日本と同程度の生活を実現する水準に抑え、海外勤務の労をねぎらう手当を別に支給する例も見受けられます。また、子女教育費の一部を個人負担させる会社もあります。従って、出向者の給与を他社と比べる際には、上海での生活費見合いの給与のみを取り出すのではなく、支給総額を用いたほうがよいでしょう。
さて、出向者に支給される給与は、上海、日本を問わず、どこで支払われても、本人が居住者となっている上海で合算して納税申告しなければなりません。
一方、出向者の活動から得られる利益の受益者は現地法人であり、出向者の人件費は、税負担を含めいくら高額になっても、本来すべて現地法人が負担すべきです。そもそも、円建ての月例給与、賞与を日本で本社が支給する場合には、追って現地法人にその全額を請求する必要があります。
給与の算定が終われば、本社と現地法人との間で出向契約書を交わし、人件費の負担方法を明らかにしておくことが得策です。