Q.
夏場以降の円高で経営環境が厳しくなっていますが、人材への投資という観点から今年も冬季賞与を支給する予定です。中小企業の相場はどの程度になりそうか教えてください
A.
賞与には従業員の企業業績に対する成果配分という面と、生活のための一時金という面がありますが、近年、前者の性格が強くなる傾向にあります。2008年の厚生労働省の調査では賞与の主たる決定要因のうち、業績成果を基準としていると答えた企業は過半に上っています。実際のデータをみると、賞与の伸びは企業の経常利益に対し、ほぼ同時か半年程度遅れて連動する傾向が窺われます。
最近の動きに即してみると、2009年夏には前年秋のリーマン・ショック後の急激な景気後退の影響で2桁減となったあと、企業業績の改善を受けて、2010年夏にはプラスとなりました。同年冬、2011年夏には大手企業ではプラス基調が維持されたものの、中小零細ではマイナスとなりました。
では、今年の冬のボーナスの相場はどうなるでしょうか。前提となる企業業績の動向からみると、2011年上期の企業業績は、3月11日に発生した東日本大震災の影響で減益を余儀なくされました。いわゆるサプライチェーンの寸断で製造業分野では広く大幅減産に追い込まれ、非製造業分野でも、マインド悪化から個人消費が落ち込み、売り上げが減少しました。この結果、日銀短観によれば、2011年上期の経常利益は全産業で▲12.3%、内訳は製造業で▲14.6%、非製造業で▲10.7%と2桁マイナスが見込まれています。
一方、下期については業績回復が見込まれています。全産業で+7.4%、業種別には製造業で+16.4%、非製造業で+2.0%となっています。サプライチェーンの復旧や消費者マインドの回復で、生産や売り上げが持ち直すためですが、改善テンポは総じて緩やかです。これは、夏場以降の円高や海外景気の下振れ、復興需要の遅れなどで、景気回復に足踏み傾向が出てきているためです。ここにきて、タイの大洪水で部品供給が滞り、一段と企業業績が下振れる恐れも出てきました。
以上のような企業業績動向を前提とすれば、今年の冬の賞与は、おおざっぱに言えば前年並みから小幅プラスにとどまることが予想されます。日本経団連の大手企業の年末賞与に関する調査(第1回集計、10月13日時点)によれば、全産業で前年比+4.77%と比較的高めの伸びとなっています。業種別の内訳をみると、製造業が+5.59%、非製造業が▲0.36%となっていますが、この調査時点で回答した企業数は製造業で77社、非製造業で10社となっており、今後、相対的に業績改善の遅れがみられる非製造業の割合が高まれば、最終集計では全体の伸び率は低くなることが見込まれます。
中小企業の場合、大企業以上に非製造業の割合が高く、全体平均では日本経団連の最終結果よりも、伸び率は低くなり、前年をやや下回る見通しです。もっとも、これはあくまで「平均」であり、現局面のように、さまざまな面で経済構造が変わる局面では、個別の企業業績のばらつきは大きくなる傾向があります。
賞与を含む給与は労働の対価であると同時に、人材への投資という面もあります。変化の時代に、先を見越して事業構造を変えていくには、従業員のやる気が大きく作用します。増益を確保することが大前提ですが、平均は平均として、あえて賞与ファンドを確保し、将来への投資という発想を持つことも大切といえるでしょう。