Q.今年、私が個人で経営していた学習塾を法人化(法人成り)しました。
この法人成り直後に、正社員1名から家庭の事情により退職したいとの申し出を受けたため、これまでの働きへの感謝として会社からその社員に退職金を支給したいと考えています。
そこでお聞きしたいのですが、この場合、所得税法上の退職所得控除額の計算において、個人経営(以下、個人事業)の勤続期間と会社の勤続期間とを通算して、勤続年数を計算できるのでしょうか。
なお、その社員は私の個人事業の青色事業専従者でなく、その勤続期間は個人事業時代が1年6ヶ月間、法人成り後が1ヶ月間です。
また、当社の退職金規程では、退職金の支払額の計算の基礎とする期間は、法人成り後の期間によるものと定めています。
A.ご相談の場合、個人事業時代の勤続期間と法人成り後の勤続期間との通算は、認められないものと考えられます。
[解説]
1.退職金からの所得税の源泉徴収手続きの概要
所得税法上、役員や従業員に対して退職金を支払うときには、原則として、所得税(及び復興特別所得税)を源泉徴収して、徴収した月の翌月の10日までに国に納めなければならないことと定められています。
その源泉徴収税額は、退職者から「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受けていない場合には、退職金の支給額に一律で20.42%の税率を乗じて計算した金額となります。
一方で、上記の申告書の提出を受けている場合には、勤続年数に応じた「退職所得控除額」を退職金支給額から控除したうえで、源泉徴収税額を計算することとなります。
2.退職所得控除額を計算する場合における勤続年数の計算方法
所得税法上、上記1.の退職所得控除額を計算する場合の勤続年数の計算について、
退職金の受給者(退職所得者)が、その退職金の支払者の下において勤務しなかった期間に他の会社等で勤務したことがある場合において、その退職金の支払者が、その退職金の支払金額の計算基礎期間のうちに他の会社等で勤務した期間を含めて計算するとしているときは、他の会社等で勤務した期間を勤続期間に加算した期間により勤続年数を計算すると定められています。
この点について、今回のご相談のように法人成りがあった場合には、(会社の)退職給与規程等に個人事業当時からの期間を含めた勤続期間を基礎として退職金を計算する旨が定められており、それに従って計算した退職金を支払うのであれば、税務上は、個人事業当時の勤続期間を含めて勤続年数を計算することができるとされています。
反対に、退職給与規程等により、退職金の支払額の計算の基礎とする期間が、法人成りしてからの期間によるものとされている場合には、個人事業当時の勤続期間との通算は認められないこととなります。
したがって、今回のご相談には、個人事業時代の勤続期間と法人成り後の勤続期間との通算は、認められないものと考えられます。
[参考]
所法30、所令69、所基通30-10、国税庁源泉所得税質疑応答事例など