Q1
跡継ぎがいないため、長く右腕として働いてくれている役員に自社株式を売却し、事業を承継させたいと考えています。そのための手続きと注意点を教えてください。
A1
まず、取得される役員の意思をよく確認する必要があります。株式を保有することは「経営権を持って、経営にあたる」ことであり、その意識があるかをよく話し合われた方が良いでしょう。
次に、譲渡する株式が譲渡制限株式であるかどうかを確認する必要があります。譲渡制限株式とは、定款において「株式の譲渡には会社の承認が必要」(譲渡制限)の規定を置いている会社の株式という意味です。その譲渡制限株式かどうかは、会社の定款もしくは登記簿謄本を取り寄せれば確認することができます。一般的に中小企業においては、その株式について譲渡制限の規定を置いている場合がほとんどでしょう。
もし仮に譲渡制限株式でなかった場合は、原則として契約等で自由に譲渡することが可能です。しかし一方で、株式が自由に譲渡可能だとリスクは高くなります。望ましくない者を「制限」することができないからです。もしも規定が設けられていない場合には、株主総会決議において定款を変更し、譲渡制限の規定を設けることを検討された方が良いでしょう。
では、譲渡制限株式の譲渡の手続き(会社の承認)を説明します。
会社の承認を受けるためには、取締役会が設置されている会社にあっては原則として取締役会、取締役会が設置されていない会社では原則として株主総会にて承認を受ける必要があります。承認を受けなければならない内容は、「譲渡(または取得)する株式数」「相手の氏名や名称」などです。仮に承認されなかった場合には、会社自身がその株式を買い取るか、会社が別の譲渡先を指定するかの2つしかありません。いずれにしても、当事者が望む相手に譲渡することはできなくなります。したがって、取締役会または株主総会にて承認決議を受けなければなりません。また、譲渡を受ける人が「株主総会などにおいて、望ましいと思われているか」という点は、改めて検討しておく必要があると思います。社長のみが株主であり、取締役であるという会社では問題ないでしょうが、そうでない場合には注意が必要です。
◎譲渡株数・株価に留意する
譲渡承認を受ける場合、または実際に譲渡する場合にもう一つ問題となるものとして、譲渡価格(株価)と譲渡株数の問題が挙げられます。譲渡価格に関しては、いろいろな考え方や理論があり、これといったスタンダードな計算方法が確立されているわけではありません。しかし今回は、社長から役員への譲渡であり、影響の大きい税法(所得税法や法人税法)を基礎に述べていきます。
今回の場合、社長が保有していた全ての株式(少なくとも株式数の50%超を保有していると想定)を譲渡するものと考えられます。その場合、市場の相場のない株式の譲渡価格は、いわゆる1株あたりの純資産価額に基づいて計算されることになります。純資産価額は、直近事業年度末の貸借対照表を元に、もし土地や上場有価証券などを保有していれば、その事業年度末の価額(時価)に評価替えしたうえで計算されます。土地などの時価が多額の含み益を抱えていた場合、株価も高額になってしまうことがあります。その場合には役員の資金負担が可能かどうかも検討しなければならないでしょう。
もしもその譲渡価格(時価)よりも低い価額で取引した場合には、役員側で贈与税の問題が出てきてしまいます。自社株式を当初の発行価額などで取引してしまうケースも多く注意が必要です。