親が子供や孫に毎年贈与税の基礎控除の範囲でキチンと贈与してきたつもりだったのに、相続税の調査で「名義預金」と指摘され、被相続人の財産として修正申告しなければならなかったという例が見受けられます。
そんなことにならないように正しい知識を身につけましょう。
○基本は民法の贈与
贈与するということは「ただでものをあげること」というのが私たちの常識です。
しかし。民法では「贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し(片務)、相手方が受諾する(諾成)ことによって、その効力を生ずる」としており、「書面によらない贈与は、当事者が撤回することができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない」とされています。
つまり、贈与を受けた側がその事実を知らなかったり、贈与を受けた財産を自由に処分したり運用したりできなければ、法律的には贈与が履行されたとは認めてくれないのです。
ところが「渡してしまうと無駄遣いするといけないので預かっておく」ために、親や祖父母なとが贈与をしたつもりの子供や孫名義の預金を保管していることが多いのが実情です。
このような場合、実質的に子供や孫は自由に処分や運用をできません。
それどころかその事実を知らないこともあります。こうなると当然贈与は成立していないことになります。
○名義預金に時効はない
「贈与税を払っていなくても時効があるので最長でも7年経てば問題ないでしょう」とおっしゃる方がいます。
確かに贈与が成立していればそのとおりですが、そもそも「預かっていた預金」は、その人は贈与したつもりでも、贈与を受けたはずの人がその事実を知らなかったり、財産を自由に処分したり運用したりすることができなければ、民法の贈与契約は成立していません。したがって、何年経っていても贈与が成立していないとして、時効にはならないのです。
時効といえばいまだに「公正証書で土地の贈与契約を行って、その日から7年以上経過してから登記をすると贈与税を払わずに贈与できる」と耳にすることがあります。
しかし、平成10年12月25日の名古屋高等裁判所の判決でこのことは否認され、その後上告された最高裁判所は不受理決定をしていますので、こんなやり方は認めない判決が確定しています。
○金融資産は相手に渡す
預貯金、株式、国債及び投資信託などの金融資産は、贈与する人から贈与を受ける人に実際に渡す必要があります。
しかし、実際に渡した場合でもそのことを第三者からみて客観的に証明することが求められますので、次のような手続きをしておくとよいでしょう。
①父母又は贈与する人の銀行口座から贈与する金額を引き出し、もらう人の銀行口座に毎年あげたいときに振り込む。
②もらう人は自己名義の口座を作っておく(開設申込みは必ず本人又は親権者の自署押印によること)。
③もらった人又はその親権者が通帳、印、証書などを保管する。届出印は必ず贈与者のものとは別にしておく。
④暦年贈与を選択している場合で贈与金額が110万円を超えるときは、必ず申告して贈与税を納付する。
○収入はもらった人に
贈与してもらう人が既に給与収入などがあり独立しているような場合には、給与が振り込まれる銀行口座に振り込んでもらえば、日常的に使用している口座に振り込まれていますので贈与が成立していることに疑問の余地がありません。
株式の贈与を受ければ、その後に受け取る株式の配当収入は当然贈与を受けた人のものになります。それが収入を生む賃貸建物の場合には、贈与を受けた後の賃貸収入は建物の贈与を受けた人のものですから、その収入に係る不動産所得は贈与を受けた人が自らの所得として申告する必要があります。
さすがに賃貸収入の申告を忘れたり、贈与をした人の所得として申告したりする人は少ないようですが、株式の配当や債権の利息などを贈与した人が贈与前のようにそのまま受け取ってしまっている例が時々見受けられます。
そうなると贈与そのものの意思が疑われることになりかねません。
後で無用の疑いをもたれないように、これらの収入は「もらった人」が受け取り、申告が必要な場合にはもらった人が自らの所得としてきちんと申告しておきましょう。
平成23年5月に国税不服審判所で出された裁決では、「それらの原資を誰が負担しているか、取引や口座開設の意思決定をし、その手続きを実際に行っていたのは誰か、その管理運用による利益を得ていたのが誰かという点もまた帰属の認定の際の重要な要素ということができ、名義人と実際に管理運用しているものとの関係などを総合的に考慮して」財産の帰属を決めるべきであるとしています。
このように、安易に子供や孫名義の預金を作らず、実際に贈与して本人が自由につかえるようすることが重要です。