[相談]
私は現在、昨年分の所得税確定申告書を作成しています。
その際、国税庁発行の「確定申告の手引き」を参照していたところ、「退職所得のある方が確定申告書を提出する場合は、退職所得を含めて申告する必要があります。」との一文があったのですが、一般的に、退職所得については確定申告書の提出は不要と理解していたため、疑問に感じています。
そこで、確定申告書になぜ退職所得の記載が必要なのかを教えてください。
[回答]
退職所得の金額は、所得税法上の医療費控除や寄附金控除などの各種規定に影響を及ぼすことから、確定申告書への記載が必要とされています。詳細は下記解説をご参照ください。
[解説]
1.退職所得についての確定申告の必要性(原則)
所得税法上、その年において退職所得を有する人は、次のいずれかに該当する場合には、その年分の課税退職所得金額に係る所得税については、原則として、確定申告書の提出は不要とされています。
①その年分の退職手当等の全部について所得税の徴収をされた又はされるべき場合
②①に該当する場合を除き、その年分の課税退職所得金額について計算した所得税の額がその年分の退職所得に係る退職手当等につき源泉徴収をされた又はされるべき所得税の額以下である場合
2.確定申告書に退職所得の記載が必要である理由
上記1.で述べた通り、退職所得については、原則として確定申告の必要はありません。
しかしながら、ご質問中にあるとおり、確定申告の手引きには、「退職所得のある人が確定申告書を提出する場合は、退職所得を含めて申告することが必要」と記載されています。
この理由は、退職所得が所得税法上の「総所得金額等」や「合計所得金額」に含まれることから、医療費控除や寄附金控除などの各種規定に影響を及ぼすためです。なお、「総所得金額等」と「合計所得金額」の定義は、国税庁サイトでご確認ください。
例えば、医療費控除については、その年中に支払った医療費の金額の合計額がその年分の「総所得金額等」の5%(その金額が10万円を超える場合には、10万円)を超えるときは、その超える部分の金額がその対象となると定められており、また、寄附金控除については、その年に支出した特定寄附金の額の合計額とその年の「総所得金額等」の40%相当額のいずれか低い金額から2,000円を控除した金額が寄附金控除額となると定められています。
また、「基礎控除」については、「合計所得金額」が2,500万円以下である人について、その人のその年分の総所得金額などから一定額を控除すると定められています。
このように、退職所得の金額は、所得税法上の各種控除規定などに影響を及ぼすことから、確定申告書への記載が必要とされているのです。
[参考]
所法73、78、86、121、国税庁「令和4年分 所得税及び復興特別所得税の確定申告の手引き」など
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